悪に掴み寄せられる要素
【今回の本】
新しいことが始まった。
なんていうと、
何だか良いことのように思えますが、
そうとは限らないですよね。
新しい環境、新しい人間関係は
ストレスになって、いつの間にか
疲労が蓄積していることがあります。
そういう時は注意が必要です。
悪いことに、引きずり込まれたりしますから。
そんなことを考えさせられるのが
遠藤周作さんの小説
『海と毒薬』です。
【諦め、憎しみ、自己嫌悪】
疲れてる時って、どういう訳か
昔の嫌のことが、
ふと浮かんできたりするんですよね。
それで憎しみの再生産が起きたり、
自己嫌悪に陥ったり…。
そうすると、
明日のことがどうでもよくなったりします。
そういう時に、悪い声が聞こえてくるんですね。
魅力など無い悪い声が!
利益にもならないし、脅されてるわけでもない。
断ることが出来る状態にいるのに、
なぜか悪い声に応えてしまうことが
人間にはあるんですね。
『海と毒薬』の中でもそういう人物が出てきます。
小説は医療現場が舞台ですが、
あらゆる業界で同じようなことが
起きていると思います。
【途中で止めても】
信じられないような悪事であっても
始まりは凄く小さなことが
きっかけだったりします。
強い意思が無いのに、
信じられないくらい残虐な悪事をしてしまうことが
誰にでもあるんですね。
気軽に引き受けて行ったことが、
ちょっとした犯罪で、少しずつエスカレートする。
気が付くと、重罪の手前まで来ていた。
「ここまで来たら、もう戻っても罪は消えない。」
そういう声が、罪をさらに深くしまう。
外から見ている人は、
せめて途中で止まっていれば、と思うでしょうが、
当事者は冷静で客観的に
最善策を考えることなんて出来ないでしょう。
【許しが無い社会の残虐】
今の日本は特にそうですが、
小さな罪でも有罪になって罰を受けた人に
異常に厳しい社会的制裁をしますから、
多くの人が罪を犯すことを凄くに嫌がります。
『罪を犯すことを嫌がる』のは良いことというか、
社会性を持った人なら当然のことですが、
それが強まり過ぎると、
失敗も異常なまでに嫌がる社会に
なってしまいます。
一度でも罪を犯すと、
一度でも失敗すると、
その後の人生はずっと苦しく悲惨なものになる
というような社会だと、
結果としてさらに罪が増えるんじゃないかと
思うことがあります。
それも残虐な悪事じゃないのか?
『海と毒薬』の主題から離れますが、
罪を許そうとする人間の良心
というようなことも考えさせてくれる一冊です。