御社の従業員を、逮捕しました
昔、あるブラック企業で働いていた時のことです。
ある日突然、見たことのない男の人が
会社に来ました。
対応に出ると
「御社の従業員を逮捕しました。
少しお聞きしたいことがありますので、
協力してください。」
などと言います。
警察手帳を示し、
名刺をくれました。
間違いなく刑事さんです。
こちらも名刺を渡すしかありません。
忙しいけど、帰ってくれとは言えません。
こうして、苦しむだけの新たな業務が
始まりました。
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管理部門の役員と社長に連絡を入れるように
事務員さんにお願いして、
刑事さんを応接室に案内しました。
担当者がまいりますので、お待ちくださいと言って
下がろうとすると、
刑事さんが巧みに話しかけてきます。
会社のこと、私個人のことなど聞かれます。
刑事さんに自分のことを聞かれて話していると、
なんとも言えない気持ちになりますよ。
同じ警察官でも交通課とか地域課の人とは
大きく違う話しぶりです。
そうこうするうちに担当役員が来たので
下がろうとすると、
お前も一緒に話を聞け。この件の対応は
お前に任せるから。
と言われて担当することになりました。
モチベーションは最低です。
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逮捕された従業員というのは
日頃から無断欠勤など、問題行動をする人でした。
この時も無断欠勤二日目で、
前日に電話してもでなかったので、
今後どうなるかと心配していたところでした。
刑事さんの話によると
数か月前から犯罪の疑いがあり、
調査を続けていたところ
決定的な行動を確認したので逮捕した。
逮捕時に証拠物件も多数押収したので
間違いはないだろうということでした。
そして、その従業員について
入社の経緯から逮捕時までの様子を聞かれました。
さらに厄介な要求がありました。
逮捕された従業員と、一緒に働いている人たち
それから仲が良い人たち全員に話を聞きたい。
明日、御社の都合の良い時間で結構ですから
その人たちに話を聞かせてもらいたい。
そう言って刑事さんは帰っていきました。
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刑事さんが帰った後で会社に戻ってきた社長。
まず大激怒です。
そして社長が心配したのが
逮捕された事実が広がって
売上が減るんじゃないかということでした。
新聞・テレビのニュースになっても
不思議じゃない事件でしたが、
報道されることはありませんでした。
報道されるかどうかの基準は
本当に不思議なものです。
報道されていたら売上は減っていたことでしょう。
それよりも私と担当役員が心配したのは
翌日の刑事の聞き取り調査です。
刑事さんは、具体的に指名しなかったので
容疑をかけられている人間は、
従業員の中にいないはずだけど、
共犯者がいたらどうなってしまうだろう
ということと
誰を調査に出すべきかということでした。
一緒に働いていた人は確定できるとして、
仲が良かった人というのは難しいです。
社長の判断で一緒に働いていた人が
仲のいい人だということにして、
同じ係の人たちに協力をお願いしました。
翌日の調査の準備が終わると
社長が、逮捕された従業員をすぐに
懲戒解雇しろと叫び出しました。
しかし、そうはいかないのです。
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一般にも誤解されがちですが
逮捕されただけで
即、懲戒解雇にはし難いのです。
誤認逮捕ということがありますからね。
現行犯逮捕でも誤認逮捕だったということは
ありえるのです。
人違いもありますし、
嫌疑不十分ということもあります。
逮捕後に会社としてどうするかは
ケース・バイ・ケースです。
この時、契約している社会保険労務士に
相談したところ、
こんなとんでもない事案はやったことがないから
弁護士に相談してくれといわれました。
弁護士は対応してくれて、少し時間をおいて
後日、逮捕とは別の理由で懲戒解雇することで
話をまとめてくれました。
この時は、能力もあるし
相性も良い弁護士さんだったので
本当に助かりました。
しかし、弁護士に頼めば常に
上手くいくものでもありません。
弁護士を筆頭に
専門家と言われる人たちは
個人差が大きいのが現実です。
毎月、顧問料を払っているのに
お手上げということもあります。
日頃から複数の専門家と話が出来るように
しておくのは大切なことです。
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翌日。
刑事さんの聞き取り調査を
会社の人たちが受けてくれている間に
弁護士と打ち合わせをして会社に戻ってきたら
なんと従業員が逮捕された話が
会社内で広がっていました。
調査を受けた人の一部が
社内で話して回っていたんですね。
口止めを強く言わなかった
私の落ち度とされてしまいました。
社長がまた大激怒です。
会社の評判が落ちて、
売上が減ったらどうしてくれるんだと
怒鳴りまくります。
社外に噂話が広がるのを防ぐために、
逮捕された従業員の話は禁止するという告知を
出すことになりました。
効果があったとは思えませんが
社長は何かしないと
気持ちが落ち着かなかったのでしょう。
逮捕の噂話って難しいし、恐ろしいですよ。
誤認逮捕だったということになると
名誉棄損などで損害賠償請求が来る
可能性もあるそうです。
そうこうするうちに、二か月ほどで裁判も終わり
有罪が確定しました。
もう名誉棄損の心配もないし、
何より逮捕された人は退職して
縁も切れているから、
もう悩まされることも無いと思うと、
いくらか救われた気分になったんですが、
社長がとんでもない行動をしました。
なんと逮捕されて有罪になった
問題の人物をまた雇ったんです。
ブラック企業は
それほど人手不足なんですね。
その人、有罪が確定したんですが、
執行猶予がついたんですよね。
人間はどんなに間違っても
何度でもやり直せると思います。
そういう世界であってほしい。
しかし、問題のその人は
前と変わらず会社で問題行動をおこし
ある時、一方的に会社を辞めていきました。
ブラック企業って、そんな感じです。
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